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仙台高等裁判所 昭和48年(ラ)30号 決定

抗告人 黄壽山

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一、抗告人は、「原決定を取り消す。本件競落を許可する。」との裁判を求めた。その抗告理由は、これを要するに、「抗告人が本件競売において最高価競買人となつた別紙目録(1) の土地は現況宅地であつて、その所有権の移転につき県知事もしくは農業委員会(以下「知事等」という。)の許可を要しないものである。本件競売期日の公告において右(1) の土地は現況宅地と明示されているのであるから、右公告に示された競買適格証明書を必要とする旨の制限は右(1) の土地には適用されず、これと同時に競売に付された別紙目録(3) および(4) の農地にのみ適用されるものであることは右記載自体から明らかで、前記(1) の土地についての右公告は適法であり、他に本件競落を不許とすべき事由はない。」というのである。

二、そこで按ずるに、本件記録によると、本件競売の目的たる前記(1) の土地は、登記簿上の地目は畑であるが、既に昭和二〇年頃に建物所有の目的で宅地化され、その現況は宅地(建物敷地)となつていること、別紙目録(2) の物件は山林(現況宅地)であるが、右(1) の土地とともに一括競売に付されたこと、本件競売期日の公告は、目的物件として別紙のように表示したうえ、「本件農地の競買は農業委員会又は宮城県知事の競買適格証明書を有する者に限る。競買人は競落期日まで右知事の農地法第三条による許可書を当裁判所に提出すること」なる記載があるところ、右対象物件から右(1) の土地を特に除外していないこと、抗告人は本件競売期日において右(1) (2) の物件の最高価競買人となつたことが各認められる。

ところで、農地の所有権を移転するにつき知事等の許可を必要とする旨の農地法三条の規定は競売の場合にも適用があるのはもちろんであつて、競売物件が農地である場合には、執行裁判所は民訴法六二二条の二の特別売却条件として知事等の発行する競買適格証明書を有する者に限つて競買人となることができる旨を定めておき、執行官は右証明書を有する者の中から最高価競買人を定め、執行裁判所はこの者が農地法三条による許可書を提出したのちに競落許可決定をするのが実務上の取扱となつている。そして右売却条件は競買申出人の資格に制限を加えるものであつて、競売の実施については重要な売却条件であるから、民訴法六五八条所定の公告事項とはされていないけれども、これを予じめ公告に掲記するのが実務上の慣行となつている。

他方、登記簿上の地目が農地であつても、競売実施当時現況宅地であるものについてはその所有権を移転するにつき農地法三条による知事等の許可は不要と解すべきであるから、前記(1) の土地のように現況宅地であるものについて知事等の発行する競買適格証明書を必要とする旨の売却条件を定めることは法律上許されないものというべきであり、もし、現況宅地である競売目的物件について右のような売却条件が付されている旨を公告した場合には、右のような定めが競買申出人の資格に制限を加える重要な売却条件である以上、当該物件に関する限り全体として右公告を違法ならしめるものと解すべきである。

これを本件についてみるに、前認定のように本件競売期日の公告には、前記(1) の土地につきその地目を農地として表示し、しかも競買申出人の資格を制限するについては前記(1) の土地を除外していないのであるから、たとえそのかたわらに「現況宅地」と附記したとしても、それだけの記載では右(1) の土地を除外する趣旨が明らかではないので、一般的に競売に参加しようとする者において右(1) の土地につき前記のような制限が付されていないものと理解することは困難と思われ、従つてその結果右公告は前記(1) の土地に関する限り付すべからざる制限を付した違法な公告と評価すべきものである。そして前記(2) の物件は前記(1) の土地とともに一括競売に付されたことは前認定のとおりであるから、結局抗告人を最高価競買人とする本件競落はこれを許可すべきものではないといわねばならない。

三、右の次第で、本件競落を不許可にした原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないから棄却すべきである。よつて民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 佐藤幸太郎 田坂友男 佐々木泉)

(別紙)不動産の表示

(1)  仙台市福田町二丁目五一七番一

一、畑 四二平方米

(現況宅地)

(2)  同所五一八番一

一、山林 三・三〇平方米

(現況宅地)

(3)  仙台市田子字十文字一六番

一、田 五九平方米

(4)  同所四〇番

一、田 九五二平方米

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